【内容紹介】
伝説の女優・淵透世。しかし、その1人娘・累(かさね)は、母とは似ても似つかぬ程醜い顔を持ち、その醜さ故、クラスメートから壮絶なイジメを受けていた。己の醜さを呪い、耐える日々を過ごす累。しかし、彼女には類い希な人を演じる演技力を持っていた。技術を持っているのに醜さで評価されない累は母・透世が残した一本の口紅を手にする。それは口づけをした相手の顔と交換する力を持つ口紅だった。母が残した一本の口紅が、累の運命を大きく変えていく―。
【オススメコメント】
口づけをすれば相手の顔にすり替わる。なんて百合ん百合んなんだ、と期待してはいけません。中身はどっりしとしたサスペンス作品となっています。
醜いからこそ美への憧れを抱き、それを手にすることの喜び。そして失うことの絶望。主人公の葛藤と心情を見事に描いている作品です。
果たして累は永遠に続く美を手に入れることができるのか?先が楽しみな新人とは思えない実力派作家による作品です。
コメント:星野
10/22UP
【週間オススメコメント】
イブニング公式の1、2話試し読みがすでにかなりの反響を呼んでいた、松浦だるま先生の初単行本です。とても信じられない完成度の高さですがマジで初。話の構成上、非常に高い画力と台詞回しのセンスが必要なのですが、どちらも文句のつけようが無し。特に表情の描き分けがすばらしい。累ちゃんには頑張って欲しいと思う一方、彼女の行いは果たして許されてよいのか? という疑問もあったり、一筋縄ではゆかないストーリーもお見事。こりゃ凄い新人さんが出ましたねえ。とりあえず、変身前の累ちゃんが可愛く見えたら末期です。いや、むしろ始まってるか?
コメント:のん
大西巷一先生 インタビュー
ファンタジー作品は多いが、なかなか定着しなかった中世ヨーロッパ漫画が今熱い!ということで、フス戦争を描いた「乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ」を連載している大西巷一先生に中世時代やら色々語って頂きました。
──ペンネームの由来は?
「大西」は本名のままで、「巷一」はデビュー当時読んでいた『陋巷に在り』という小説から「巷」の字をもらいました。漫画家は孤独な仕事というイメージですが、社会の一員として人との関わりを忘れないように、という意味も後付けで考えました(笑)
──漫画家になろうと思ったきっかけは? またそれはいつ頃ですか?
もともと歴史が好きで、歴史に関わる仕事をしたいと思っていました。一応大学院まで進学したのですが、研究者には向いていないなと思い、歴史漫画を描く仕事はどうだろう?と思って、新人賞(97年のアフタヌーン四季賞)に応募してみたところ、賞をいただけたので、漫画家としてがんばってみようと決心しました。
──一番好きな小説・漫画などあればお教え下さい。
自分にとって理想であり目標としている作品としては、漫画なら『ベルセルク』、『エマ』、『ヴィンランド・サガ』、『あっかんべェ一休』、『宗像教授伝奇考』、『銃夢』、『風の谷のナウシカ』など、小説なら『傭兵ピエール』、『後宮小説』、『大聖堂』、『悪童日記』など、映画なら『シンドラーのリスト』、『ブレイブハート』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ニキータ』などです。
──作画環境などお話しできる範囲で教えて頂ければお願いします。
今はネームから仕上げまですべてデジタルでやっています。PCはデジタルコミック向けにチューンしてもらったHPのノートパソコン。モニター兼タブレットにワコムの23インチ液晶タブレット。ソフトはComicStudio4.0がメインです。2人の在宅アシスタントさんに手伝ってもらってます。
──中世ヨーロッパの魅力を語ってください。
ひとことで言うと、「リアリティのあるファンタジー世界」だと思います。中世ヨーロッパ風のいわゆる「剣と魔法の世界」はなじみがあると思いますが、そのモデルになった中世ヨーロッパも「現代でもなく、日本でもない」という点では我々にとって完全に異世界だと思います。魔法使いやドラゴンこそいないものの、剣で戦う騎士がいて、城壁に囲まれた城や街があって、大聖堂の鐘が鳴り響いています。異世界ではあるけれどかつて実在した世界ですから絵空事ではないというリアリティがあります。「説得力のある異世界」を描けるのが中世ヨーロッパの面白さだと思います。そういう点では歴史物はみんなそうですけど。
──このところ中世ヨーロッパ作品が増えてきていますが、それによって描く上での変化などありますか?
いち歴史オタクとして、史実ベースの歴史漫画が増えたことはとてもうれしいです。この状況を20年前の自分に教えたあげたいですね(笑) 少し前までは戦国時代と幕末と三国志以外の歴史物はなかなか売れにくい状況でしたが、お陰さまでマニアックな歴史物でも描かせてもらえるようになり、それもうれしいことです。
──先生の作品は特にそこまでやるかという残虐性を描いたものが多いですが、残虐なものを描き続ける主旨などございましたら。
一応言っておきますが、ぼくは残虐なシーンを描くのは好きですが、現実にそういうことをやるような趣味は一切ありません。そこは誤解しないでくださいね。創作の世界は現実に無いものを補完する役割もあると思っています。もしぼくが波瀾万丈の過酷な人生を歩んでいたらこういうものは描いていない気がします。平和で穏やかな生活をしている人にとっては刺激的な作品こそ必要なのかもしれないし、残酷な話や悲惨な戦争の話を描くことが現実の平和に貢献することもあると思っています。
──この作品を描く上で苦労している所や注意している所などありますか?
背景はいつも苦労しますね。3巻ではプラハが舞台になりますが、大聖堂が建造途中だったり、橋や天文時計の形が違ったりと、当時のままの部分と現代とは違う部分が混在しているので調べながら描くのが大変でした…
──日本人には馴染みの薄いフス戦争を題材にした理由は何ですか?
素材として絶対的に面白いので、馴染みがなくてもいいから描きたいと思っていました。面白さのその1は、革新的な戦術で弱者(農民)が強者(騎士)をバタバタと倒していくところ。その2は宗教戦争の過激さと純粋さ。その3は女性や子供が戦士として活躍するところです。あとスラヴ系の金髪の女の子と民族衣装が描けるのもポイントです♪
──眼帯に戦術家。そして無敵を誇ったヤン・ジシュカという日本人にウケるような人物でありながらほとんど知られてきませんでした。ヤン・ジシュカの先生が惹かれる魅力は?
魅力のひとつはジジイだという点です(笑) もし彼が真の天才ならもっと若いうちから頭角を現していたと思いますが、彼は晩年に突如歴史の表舞台に登場します。フス戦争以前のことはほとんどわかっていません。いったいどういう人生を歩んで無敵の戦術家になったのか、いろいろと想像をかきたてられます。他にも魅力はたくさんありますが、ネタバレになりそうなので今は言わないでおきます(笑)
──農兵が戦ったというフス戦争で只の女の子であるシャールカを主人公にした理由はありますか?
戦うヒロインの話はみんな大好きじゃないですか。ぼくも大好きです♪ ましてフス戦争では本当に女性や子供が戦っていたので、それを描かない手はありません。そしてどうせなら、戦争とはもっとも縁遠いタイプの女の子を主人公にしたら面白くなると思いました。ちなみにシャールカという名前は、チェコの伝説上のヒロインの名前から取りました。チェコには昔、男性軍と女性軍に別れて戦争になったという伝説があり、女性軍の大将ヴラスタとともに戦う美しい女勇者シャールカというのが登場します。この戦争は「乙女戦争」とか「娘たちの戦い」と呼ばれています。
──騎士好きなのに無慈悲なまでに騎士がやられていってしまいますが、騎士の格好良さと見てほしいところはどんなところですか?
圧倒的な力で敵を蹂躙する騎士もカッコイイですが、敵を舐めてかかって完膚なきまでに撃退される騎士もまたイイんです! 甲冑や紋章などの見た目の格好良さも大事ですね♪ 傭兵は戦闘のプロですが、騎士は違います。騎士は「領主」であり領地経営のために必要な仕事のひとつが戦闘であるに過ぎません。そういう立場や価値観の違いなんかも伝わるといいなと思って描いています。
──この作品を読んで中世ヨーロッパに興味を持った読者は多いと思います。そんな人に知ってもらいたい事件や戦争やそれに関する書籍などあったら教えてください。
ぼくの漫画はあくまでエンタメとして描いていますが、本当のところはどうだったんだろう?という興味を持つきっかけになってくれたらすごくうれしいです。中世ヨーロッパ史は学問的にはかなり研究が進んでいて、書籍も専門的なものから読みやすいものまでたくさん出ています。一度、書店や図書館の歴史のコーナーを覗いてみてほしいですね。面白そうな本がたくさん見つかると思いますよ。
──お忙しい中ありがとうございました。最後に読者の皆様へ一言お願いいたします。
主人公のシャールカには今後もたくさんの試練が待ち構えていますが、きっと乗り越えていくでしょう。その姿を全力で描いていきますので、応援よろしくお願いします!